EKIDEN.AIのアイデア誕生と実現までの道のり
私たちEKIDEN.AIの誕生は、陸上競技への深い情熱と、テクノロジーの可能性への確信が交わった瞬間から始まりました。この記事では、プロジェクトの背景にある思いと、実現までの道のりを共有したいと思います。
情熱から生まれたアイデア
EKIDEN.AIの構想は、3年前に遡ります。SUZUKIアスリートクラブの合宿所で、ロンドン五輪マラソン日本代表の藤原新と、連続起業家の高橋雄介が出会った夜のことでした。藤原がコーチングにおけるコミュニケーションの課題について、プロダクト開発経験豊富な高橋に相談したのです。
その夜、2人は既存のトレーニングツールの限界や、コーチと選手間の効果的なコミュニケーションの重要性について語り合いました。藤原が日々のコーチング現場で感じていた「もっと選手に寄り添えるはずだ」という思いと、高橋のプロダクト開発の知見が重なり、新しい可能性が見えてきました。詳細な議論の内容は記憶の彼方ですが(かなりの量のIPAとナチュラルワインを消費した結果)、「世界はもっと良くなる、みんなもっと速くなれる」というワクワク感だけは鮮明に残っています。
その後、高橋のパーソナルトレーナーでありランニングコーチでもあるMarone Kota Azizも議論に加わり、アイデアが徐々に形になっていきました。藤原がSUZUKIのコーチとして活動を続ける一方、マロンはオーストラリアのバイロンベイでコーチを育成するアカデミーを立ち上げたり、世界中のコーチの考えを日本語で紹介するWORLD RUNNING NEWSを立ち上げるなど、それぞれの道を進みながらも、「もっと多くのランナーに質の高いコーチングを届けたい」という共通の願いを持ち続けていました。
左から、高橋、藤原、Marone。SUZUKI ATHLETE CLUBの合宿訪問時のサウナ後(2022年5月22日)。半裸で恥ずかしいので、顔をマスクしてみました。
理想の追求と試行錯誤
私たちはランナーやコーチとして、様々なツールを使用してきました。しかし、それらはデータ分析に長けている反面、「対話」という本質的な部分が欠けていると感じていました。真のコーチングは、単なる数字の提示ではなく、選手の状況や感覚を理解し、適切なタイミングで的確なアドバイスを提供することにあります。この「対話を通じた理解と信頼関係構築」という部分を、テクノロジーでどう実現する(もしくはサポートする)かが私たちの課題でした。
高橋の専門分野であるAIの世界で、近年注目されている「Agentic AI(能動的AI)」の可能性に着目したのは必然だったかもしれません。「人間のコーチと選手のコミュニケーションのフリクションを最小限にし、UXを最大限に高める会話型アプリケーション」「人間のコーチとAIのコーチがチームで選手をコーチング」「人間のコーチのコーチングの質を最大限に高めるためのAIアシスタントコーチ」など、様々なコンセプトを高速で検証していきました。
経験の共有と成長の場の創出
シリコンバレーでの起業経験を持つ高橋は、「起業は一人ではできない。メンターやエンジェル起業家といった近しい経験者の支援があってこそ成功できる」と実感していました。この「経験者からの適切な支援が成長を加速させる」という原理は、陸上競技の世界でも同様です。
優れたコーチやメンターの存在が、トップアスリートの成長に不可欠であることは、藤原やマロンの経験からも明らかでした。しかし、そうした質の高いコーチングにアクセスできるランナーは限られています。この「コーチング格差」を埋めることが、私たちの重要なミッションの一つとなっています。
AIと人間のベストミックスを目指して
私たちはAIが全てを解決するとは考えていません。人間の優れたコーチングには、AIが簡単に模倣できない要素があります。しかし、AIの強みを活かすことで、より多くのランナーが質の高いコーチング体験にアクセスできる可能性が拡がります。
EKIDEN.AIは、「人間とAIのベストミックス」を追求し、ランナーが自分のトレーニングに自信を持って取り組めるよう支援することを目指しています。目標達成やパフォーマンス向上だけでなく、ランニングそのものの楽しさや充実感を高めることにも価値を置いています。
高橋の起業家としての信条は「アイデアは意味をなさないが、実際のお客様が幸せになれば初めて優れたアイデアだったということになる」というものです。この信念のもと、私たちは今回のβ版リリースを通じて、EKIDEN.AIの価値を実証し、皆さんと共により良いプロダクトを築いていきたいと考えています。
日本発祥の駅伝が象徴するように、「共に成し遂げる」という精神で、このプロジェクトを前進させていきます。走ることを愛する全ての人々と共に、新しいランニング体験の創造に挑戦していきたいと思います。