自分より速い奴ばかりの世界で、それでも前に進む。
2025年7月6日、Gold Coast Marathon。
オーストラリアの陽光、身体を揺さぶるような音楽、沿道の声援。
タイムを狙うだけの場所じゃない。
自分の限界と、世界の壁に真正面からぶつかれる、覚悟を試されるレースだ。
そんな中に、EKIDEN AIアンバサダーでもある
コモディイイダ所属、金子晃裕(かねこ あきひろ)選手の姿があった。
今回の結果は2時間13分05秒、総合9位。
自己ベストは2時間10分59秒。
1位〜5位を日本人選手が占める中、
その流れに乗れなかったことを、金子選手は静かに、でも悔しそうに語っていた。
ただ、その表情に陰りはなかった。
「まだ突き詰められるところがある。それを探す作業が、今は楽しい。」
僕はその言葉に、ただ素直に勇気をもらった。
本気で走る市民ランナーにこそ、届けたい
この文章は、
「限られた時間で本気の結果を目指す」市民ランナーの方にこそ読んでほしい。
金子選手の姿には、そういう人たちが共鳴できるリアルが詰まっている。
才能ではなく、積み上げで
金子選手は、いわゆる“才能型”の選手じゃない。
高校時代の1500mベストは4分37秒。
大学入学後も陸上部には入れず、最初はサークルからのスタート。
2年生の夏にようやく入部するも、故障続き。
グラウンドには立てず、
ジム、プール、山を巡りながら、書籍を読み、トレーナーに質問を重ね、
自分の身体で実験を続けた。
その努力が形になり、大学4年で箱根駅伝のアンカーに抜擢され、
当日朝のメンバー変更にもかかわらず区間4位。
社会人では、目標だったニューイヤー駅伝にも出場した。
限られた中で、どう積み上げるか
競技力も、身体も、時間も、全てが限られている中で、
何をどう積み上げるか。
今回のGold Coast Marathonに向けた調整では、
金子選手はEKIDEN AIを「日々の相談相手」として活用していた。
データとの対話
練習内容や疲労の抜き方、本番前の微調整などを、
AIとの対話を通じて再確認する。
「今日は追い込むべきか、それとも整えるべきか──。」
睡眠や主観的疲労、気象条件の変化など、毎日のデータをもとに、
「今の自分に必要な練習」を一緒に考えていくプロセスだった。
それは、単なるデータの提示ではなく、
迷いや不安に対して“もう一人の視点”がそこにいてくれるような感覚だったのかもしれない。
現場に行って、肌で感じた
僕自身、今回のレースには応援として現地に行った。
沿道で叫び、走り終えた金子選手とランチをしながら、
レースのこと、身体のこと、今後のことをゆっくり話した。
プロダクトをつくるだけなら、どこかのオフィスで完結する。
でも、「走ること」を支えるためのものをつくるなら、
その現場に立ち会いたい。
音、空気、汗、喜び、悔しさ。
そういった目に見えない要素を、身体で感じたうえでなければ、
まともなものはつくれないと思っている。
意味ある時間にするために
金子選手のように、駅伝、マラソン、仕事と、
いくつもの役割を背負いながら、
それでも走る時間を大切にしている選手はたくさんいる。
全てを注げるわけじゃないからこそ、
その時間を意味あるものにできるかが大事なんだと、あらためて思わされた。
自然が好きな金子選手には、
「来年はバイロンベイを案内するよ」と伝えた。
僕が暮らすこの場所は、彼がきっと気に入る。
僕たちがつくっているもの
僕たちは、「AIで競技力を高める」という未来を描いているけれど、
本当に目指しているのは、
一人ひとりの“問い”に寄り添う道具であることだ。
今日、自分の身体は何を伝えようとしているのか。
どこに余白があって、どこが限界なのか。
その対話を支える技術でありたい。
そんなふうに思いながら、今日も開発を続けている。
今日も、自分より速い奴ばかりだ。
それでも、やる。